広島地方裁判所 昭和44年(ワ)254号 判決 1971年11月12日
原告 東京興産株式会社
右代表者代表取締役 中村兆成
右訴訟代理人弁護士 藤堂真二
被告 西村信
右訴訟代理人弁護士 丸茂忍
右訴訟復代理人弁護士 田村虎一
主文
広島地方裁判所昭和四二年(ケ)第一一二号不動産任意競売事件において、別紙不動産目録記載第一の宅地につき、同裁判所が作成した配当表のうち、被告に対する配当額五〇二万八六一〇円を取消す。
広島地方裁判所昭和四二年(ケ)第一一二号不動産任意競売事件において、別紙不動産目録記載第二の宅地につき、同裁判所が作成した配当表のうち、被告に対する配当額四八〇万五一一六円を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
一、別紙不動産目録記載第一の宅地(第一宅地と略称する)の関係
(一) 訴外中村卯三は原告の株式会社広島相互銀行に対する債務の担保として第一宅地に抵当権を設定していたところ、原告が弁済期に支払いができないため、同銀行より任意競売の申立があり、広島地方裁判所昭和四二年(ケ)第一一二号不動産任意競売事件として手続が進行し、昭和四四年三月一九日の配当期日に第一宅地につき別紙配当表(一)が作成された。
(二) 第一宅地につき登記簿上、広島法務局昭和四〇年二月四日受付債権額四〇〇〇万円、利息年一割五分、債務者原告、抵当権者芸陽建材株式会社(芸陽建材と略称する。)なる抵当権設定登記があり、また、昭和四二年一一月一八日受付で被告の芸陽建材に対する債権額を九八三万三七二六円とする右抵当権に対する転抵当権設定登記がある。そこで別紙配当表(一)のように、被告に対し第三順位として配当額五〇二万八六一〇円が計上された。
(三) しかしながら、芸陽建材より原告に対する四〇〇〇万円の債権は存在せず、したがって第一宅地に対する抵当権設定は効力なく、同時に右抵当権に対する被告の転抵当権設定も無効であり、したがって被告に対して前記金員を配当すべきものでなく、これは剰余金として訴外中村卯三に付加配当すべきものである。
二、別紙不動産目録記載第二の宅地(第二宅地と略称する。)の関係
(一) 訴外中村兆成は原告の株式会社広島相互銀行に対する債務の担保として第二宅地に抵当権を設定していたところ、原告が弁済期に支払ができないため、同銀行より任意競売の申立があり、広島地方裁判所昭和四二年(ケ)第一一二号不動産任意競売事件として手続が進行し、昭和四四年三月一九日の配当期日に第二宅地につき別紙配当表(二)が作成された。
(二) 第二宅地についても第一宅地同様、抵当権者を芸陽建材とする債権額四〇〇〇万円の抵当権およびこれに対する被告の債権額九八三万三七二六円の転抵当権設定登記があり別紙配当表(二)には被告に対し第三順位として四八〇万五一一六円を配当する旨計上されている。
(三) しかしながら、右被担保債権は存在せず、したがって原抵当権および転抵当権の設定が無効であることは前記のとおりであり、したがって被告に対しては右金員を配当すべきものでなく、これを剰余金として訴外中村兆成に付加配当すべきものである。
三、原告は前記の配当期日において、各配当表につき、被告の債権に対し異議を申立てたが、同期日に右異議は完結しなかった。
四、よって、各配当表のうち被告に対する配当額の取消しを求めるため本訴請求に及ぶ。
立証≪省略≫
被告訴訟代理人は本案前の抗弁として「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決、本案に対する答弁として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり述べた。
一、本案前の抗弁
原告には本件訴訟につき訴の利益がない。
二、本案について
(一) 原告主張一の(一)(二)、二の(一)(二)は認める。
(二) 原告主張一の(三)、二の(三)は争う。原抵当権設定登記どおりの被担保債権が存在した。原抵当権も有効であり転抵当権も有効に存在する。
(三) したがって別紙配当表(一)(二)どおりに配当さるべきである。
立証≪省略≫
理由
第一、本訴の適法性について
一、原告の主張一の(一)(二)、二の(一)(二)は当事者間に争いがない。
二、≪証拠省略≫によると、昭和四四年三月一九日の本件競売事件配当期日において、別紙配当表(一)(二)が作成され、原告は債務者として転抵当権たる被告の債権につき異議の申立をなし、右期日に異議の完結をみなかったことが認められ、これに反する証拠はない。
競売法による任意競売については、同法に反対規定がなくその性質の許す限りは、民訴法の規定を準用すべきものであり、配当期日に配当表が作成された場合には、民訴法第六九八条の準用により、期日に出頭した債務者は各抵当権者の主張する債権に対し異議の申立ができ、期日にその異議が完結しない場合には当該抵当権者を相手に配当表に対する異議の訴訟を提起し得るものと解するのが相当である。けだし、このような訴を許すことは競売法の精神になんら反するものとはいい難いし、債務者において、配当金が受取るべきでない者に交付されることによる法律関係の不合理の調整を、別の機会に譲らなくてはならぬ法理は存しないからである。そして、その理は本件の原告の如く、物件所有者でない債務者であっても異なることはない(なるほど、物件所有者でない債務者は受取るべきでない者への配当金の交付の有無に関係なく、自からは配当金の交付を受け得ない者であるし、被担保債務が本来存在しなければ、物件所有者から後に求償権を行使されることもない筈である。しかし物件所有者との間には委任その他の法律関係が存在し、受取るべきでない者に配当金が交付されると後に複雑な法律関係を生じる。)
従って本件の訴は適法ということができる。
第二、本案について
一、≪証拠省略≫を総合すると、次のようにいうことができる。
芸陽建材より原告に対する被担保債権を四〇〇〇万円とする第一、第二宅地についての前記原抵当権設定登記においては、昭和四二年一月二九日右金員の消費貸借がなされたとされているが、当時芸陽建材より原告に対し四〇〇〇万円の新たな貸出しがなされた証拠はなく、前掲証拠により、むしろかような事実のないことが明らかである。
もっともその頃形式的には芸陽建材より原告に対し、手形金、売掛金等を併せて二七〇〇万円程度の債権があり、また、原告は当時広島市出島の埋立地の払下げをうけたいと考えており、その資金二〇〇〇万円程度の融資につき芸陽建材との間で話合いがあったことがうかがえるので、あるいは右二七〇〇万円はこれを準消費貸借の目的とし、四〇〇〇万円に満つるまでの金額については根抵当権的性質を有するものとして右抵当権設定契約をしたことが考えられなくはない。
しかしながら、(イ)右手形金債権のうち約一二〇〇万円は原告より芸陽建材に対し融通手形として振出されたものであり、芸陽建材より原告に対しこれに相応する見返りの手形が交付されている関係にあること、(ロ)原告の芸陽建材に対する右債務のうち一五〇〇万円につき、既に昭和三九年一一月中村兆成所有の広島市山城町四番三二山林一六五二平方メートルに第二順位の抵当権設定登記がなされていること、(ハ)原告および中村兆成、中村卯三は芸陽建材を相手に本件原抵当権につき被担保債権の不存在確認、抵当権設定登記抹消等を請求する訴訟を提起したところ、右訴訟はいずれも芸陽建材において原告の主張を争わなかったため芸陽建材の敗訴に終り確定していること、(ニ)本件原抵当権は登記簿上に根抵当権である旨の記載はなく、出島の埋立地払下げに伴う融資も結局なされないで終ったこと、などの諸事情が前掲証拠により認められるので、これらを総合考量すると、原告と芸陽建材との間においては、既存債務の一部を準消費貸借の目的とし、一部を根抵当権的性質のものとし、これらを被担保債権とするという程の確定的な意思はなかったとみるのが相当であり(被告も本訴においてかような主張をしない。)要するに、本件被担保債権の存在を認めることができない。
右認定を左右するに足る証拠はない。
二、右の次第で、被担保債権が存在しないので、第一、第二宅地に対する原抵当権設定は無効であり、したがってこれに対する被告の転抵当権設定も無効だといわざるを得ない。
そうだとすると、第一、第二宅地に対する本件任意競売手続において被告に対し配当すべきものは存在しないから、第一宅地についての配当表のうち被告に対する配当額五〇二万八六一〇円を、第二宅地についての配当表のうち被告に対する配当額四八〇万五一一六円を取消すべきである。
よって、右各配当表のうち被告に対する配当額の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるというべくこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹村寿)